- 2025年8月4日
1. 字を書こうとすると手が震える?書痙(しょけい)とは
人前で署名をするとき、会議でメモを取るとき、あるいは大切な手紙を書くとき――。突然、手が震えたり、指がこわばったりして、思うように字が書けなくなった経験はありませんか? 「緊張しているだけ」「あがり症だから仕方ない」と片付けてしまいがちですが、もしその症状が極端で、日常生活に大きな支障をきたしているなら、それは「書痙(しょけい)」かもしれません。
書痙(しょけい)とは?
書痙は、「書字(しょじ)に関連する動作に限定して現れる、不随意(ふずいい)運動や筋緊張の異常」を特徴とする神経症です。簡単に言えば、「字を書こうとするときだけ、手が震えたり、硬直したりして、文字が書けなくなる症状」のことです。別名「書き字恐怖症」とも呼ばれます。
この症状は、特定の動作中にのみ現れる「局所性ジストニア」の一種と考えられています。ゴルフのパットを打つときだけイップスになる「ゴルファーズイップス」や、演奏中に手が震える「音楽家のジストニア」などと似た性質を持ちます。
書痙の主なタイプ
書痙の症状の現れ方には、いくつかのタイプがあります。
- 振戦(しんせん)型:
- 文字を書こうとすると、ペンを持つ手が小刻みに震えるタイプです。文字が波打つように乱れたり、線が途切れたりします。
- 緊張や不安が強いときに悪化しやすい傾向があります。
- 痙性(けいせい)型:
- 文字を書こうとすると、指や手首、腕に力が入ってこわばり、筋肉が痙攣するタイプです。ペンを強く握りすぎてしまったり、思うように指を動かせなくなったりします。
- 書く速度が極端に遅くなったり、字が小さく、読みにくくなったりすることがあります。
- 混合型:
- 上記の両方の症状(震えとこわばり)が混在して現れるタイプです。
「緊張」や「あがり症」とは何が違うの?
多くの人が「字を書くときに震えるのは、ただの緊張やあがり症だ」と考えてしまい、それが病気の発見を遅らせる原因にもなっています。しかし、書痙は一般的な緊張とは明確に異なります。
- 特定の動作に限定される:
- 一般的な緊張やあがり症の場合、人前で話す、発表するなど、様々な場面で緊張し、手全体が震えたり、汗をかいたりします。
- 一方、書痙は、**字を書くという特定の動作に限定して症状が現れます。**例えば、絵を描いたり、物を掴んだりする際には震えない、といった特徴があります。
- 日常生活への影響:
- 書痙は、症状がひどくなると、署名が必要な場面を避ける、人前で字を書くことを極度に恐れるなど、仕事や学業、日常生活に大きな支障をきたします。
- 無意識の筋肉の誤作動:
- 書痙は、脳の一部の機能的な異常によって、無意識のうちに筋肉に誤った指令が送られてしまう状態と考えられています。そのため、本人の意志や努力だけでは症状をコントロールすることが非常に困難です。
もしあなたが、人前で字を書くときに手が震える、こわばるといった症状に悩み、それが日常生活に大きな影響を与えているなら、それは「気のせい」ではありません。書痙は、適切な診断と治療で改善が見込める疾患です。一人で抱え込まず、どうぞ当院にご相談ください。あなたの「書けない」苦しみに、私たちは真摯に寄り添います。