• 2025年8月5日
  • 2025年8月4日

2. 「なぜ止められない?」強迫性障害の原因と脳のメカニズム

「こんなことを続けてしまうのは、私の意思が弱いから?」「なぜ頭ではおかしいと分かっているのに、止められないんだろう」。 強迫性障害に苦しむ多くの方が、ご自身を責め、「自分が悪いからだ」と考えてしまいがちです。しかし、強迫性障害は、脳の特定の領域の機能異常や、神経伝達物質のバランスの乱れが深く関わっている、れっきとした心の病気です。あなたの意思の弱さや性格の問題ではありません。

強迫性障害の主な原因

強迫性障害の原因は、一つではなく、複数の要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。

  1. 生物学的要因(脳機能の異常):
    • 脳の特定の部位の機能異常: 特に、大脳基底核、前頭前野、帯状回といった脳の部位の機能異常が指摘されています。これらの部位は、思考、行動の制御、感情の処理、習慣の形成などに関与しています。強迫性障害では、これらの部位を結ぶ神経回路に問題が生じ、情報処理がスムーズに行われないと考えられています。
      • 例えるなら、脳の「ブレーキ」と「アクセル」の機能がうまくいかず、「危険だ」という信号が常に過剰に出続けたり、一度始めた行動を止められなくなったりする状態です。
    • 神経伝達物質の不均衡: 脳内の神経伝達物質の中でも、セロトニンの働きが深く関与していると考えられています。セロトニンは、気分、不安、衝動性などを調整する重要な役割を担っており、そのバランスが乱れることで、強迫観念や強迫行為が生じやすくなると言われています。ドーパミンやグルタミン酸なども関連が指摘されています。
    • 遺伝的要因: 家族に強迫性障害を持つ人がいる場合、発症リスクがわずかに高まると言われています。ただし、遺伝だけで発症するわけではなく、あくまで体質的な傾向がある程度です。
  2. 心理的・環境的要因:
    • ストレス: 大きなストレス(受験、就職、結婚、人間関係のトラブル、近親者の死など)がきっかけで発症したり、症状が悪化したりすることがあります。
    • 性格傾向: 完璧主義、几帳面、責任感が強い、心配性といった性格傾向を持つ人が発症しやすい傾向があると言われています。これらの性格特性自体が病気の原因ではなく、発症の引き金になったり、症状の悪循環に陥りやすかったりする可能性が指摘されています。
    • 幼少期の経験: 清潔さや秩序に対する過度な要求、厳しいしつけ、不安を煽るような養育環境などが、発症に関与する可能性も指摘されています。

脳のメカニズム:不安の無限ループ

強迫性障害の患者さんの脳では、以下のようなメカニズムが働いていると考えられます。

  1. 「危険だ!」という信号の誤作動: 脳の特定の部位が、「鍵が閉まっていない」「手が汚れている」といった本来は些細なことであるはずの事柄に対して、異常に強い「危険信号」を出してしまいます
  2. 「不安」の発生: この誤った危険信号によって、強い不安や不快感(強迫観念)が繰り返し頭の中に押し寄せます。
  3. 「儀式」による一時的な安心: この不快な不安を打ち消すために、特定の行動(強迫行為)を行うことで、一時的に不安が和らぎます。脳はこれを「成功体験」として学習してしまいます。
  4. 悪循環の強化: しかし、この安心感は一時的なものであり、根本的な不安は解消されません。むしろ、強迫行為を繰り返すことで、その行動が「儀式」として強化され、よりその行動に依存するようになり、不安の無限ループに陥ってしまうのです。

当院では、この脳機能の混乱に加え、心身の慢性的な疲労と「生命力」の低下が、強迫性障害の症状を悪化させ、回復を妨げていると考えています。強迫観念と強迫行為に囚われる日々は、心身に多大なエネルギーを消耗させ、本来持っている「生きる力」「回復する力」を著しく低下させてしまうからです。

強迫性障害は、あなたの意思の弱さではありません。脳の機能異常によって引き起こされる病気であり、適切な治療とケアによって、この無限ループから抜け出すことが可能です。

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