• 2025年7月15日

2. ある男性の物語:病気になるまでの道のり

今回は、一人の模擬症例を通して、病気がどのようにして発症し、進行していくのかを具体的に見ていきましょう 。

この男性は、X-6年前にIT企業にSEとして就職し、数年間は指示された通りに仕事をこなし、社内でも高く評価されていました 。しかし、X-1年、彼がリーダー職に就いたことで状況は大きく変化します 。上司からはこれまで以上に厳しい成果を求められ、一方で後輩からは個人的な悩みまで打ち明けられるようになりました 。彼は、これらの答えの出ない問題ばかりに直面し、精神的に追い詰められていきました 。さらに、家庭では妻が子どもの進学のことで悩んでおり、彼女にこれ以上の負担をかけたくないという思いから、自分の悩みを打ち明けることができませんでした 。

この頃から、彼の飲酒量は徐々に増えていきました 。一時的にアルコールによって仕事や家族の辛さを忘れ、よく眠れるようになったものの、その効果は長くは続きませんでした 。1か月もすると、かえって身体がだるくなり、気分も落ち込むようになったのです 。そしてついに、X年、彼は当院を初診することになりました 。

彼の家族背景を見てみましょう。父親は役所勤務で、真面目で神経質、保守的な性格でした 。母親は専業主婦で、細かいことは気にしない、元バレーボール選手という大らかな性格です 。彼は兄弟はおらず、一人っ子でした 。

既往歴としては、逆流性食道炎を患っていました 。

さらに、彼の生い立ちを紐解いてみましょう 。小学生の頃はキャンプが大好きで、毎年のように自然の中で過ごし、魅了されていました 。中学、高校とバレーボール部に入り、高校時代は副キャプテンを務めます 。なんとなく好きで始めたバレーボールでしたが、副キャプテンとして皆に慕われ、やり甲斐を感じていました 。しかし、彼は皆を盛り上げるのは好きでしたが、予定外のことが苦手で、想定外の事態が起こるといつもキャプテンの意見に任せてしまう傾向がありました 。大学卒業時には、将来何をしたいのか分からず、就職活動に失敗するという経験もしています 。

彼は、明るく、優しく、面倒見の良い性格である一方で、自分から積極的に物事を決めることが苦手で、何事も他人任せにしがちな優柔不断で依存的な面がありました 。社会人になり、リーダーというまとめる役が回ってきた時に、この優柔不断な性格が災いし、問題から目を背けるために飲酒に逃げてしまいました 。飲酒が悪いと分かっていても止められず、自己嫌悪の感情が募り、次第に抑うつ的な状態へと陥っていったのです 。彼の病態は、真面目で神経質な父親、大雑把な母親という家庭環境や、上司からのプレッシャー、部下からの信頼といった現在の状況、そして飲酒、不眠、うつ状態といった症状が複雑に絡み合って形成されたものと推測できます 。加えて、妻が仕事で余裕がない状況も彼のストレスを増幅させていたと考えられます 。

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