- 2025年7月16日
- 2025年7月9日
9. 終末期ケアの倫理と法的な側面〜知っておきたいこと〜
人生の終末期における医療の選択は、多くの人にとって深く考えるべきテーマです。特に、「延命治療の停止」「尊厳死」「安楽死」といった言葉は、倫理的、法的な側面と深く関わり、複雑な感情を伴います。終末期ケアを考える上で、これらの概念や、日本における現状を知っておくことは非常に重要です。
1. 延命治療の中止・差し控え
- 定義:
- 中止: すでに開始されている延命治療(人工呼吸器、人工栄養など)を、患者さんの意思や家族の同意のもとで中断すること。
- 差し控え: これから開始しようとする延命治療を、患者さんの意思などに基づいて行わないこと。
- 日本の現状: 日本では、適切なプロセスを経て、患者さんや家族の意思が明確に尊重される場合に限り、**延命治療の中止・差し控えは容認されています。**これは「医療行為の不作為」と見なされ、法的に問題視されません。
- 重要なポイント: 患者さんの意思(リビングウィル、ACPなど)が明確であることが最も重視されます。意思表示が困難な場合は、家族がその意思を推定し、医療チームと十分に話し合い、合意形成を図ることが求められます。
2. 尊厳死とは?
- 定義: 患者さん本人が、延命治療によって苦痛を長引かせず、自然な死を迎えることを選択し、その意思に基づいて延命治療を中止または差し控えること。
- 日本の現状: 日本では、「尊厳死」という独立した法律はありません。しかし、前述の「延命治療の中止・差し控え」の考え方に沿って、患者さんの意思が尊重される形で実質的に行われています。
- 「リビングウィル」との関係: 尊厳死の意思を事前に書面で表明しておくものがリビングウィルです。
3. 安楽死とは?
- 定義: 患者さんの耐えがたい苦痛に対し、医師が積極的に死期を早める行為を行うこと。
- 積極的安楽死: 医師が薬物を投与するなどして、意図的に死を招く行為。
- 消極的安楽死: (尊厳死とほぼ同義で使われることが多いが、厳密には異なる)延命治療を中止・差し控えることで、自然な死を待つこと。
- 日本の現状: 日本では、**積極的安楽死は法的に認められていません。**殺人罪など、刑事罰の対象となります。
- 尊厳死と安楽死の違い:
- 尊厳死: 医療行為を「やめる」ことで、自然な死を待つ。死は病気の進行によるもの。
- 安楽死: 医療行為によって「死を積極的に招く」。死は医療者の行為によるもの。 この違いは、法的に非常に重要です。
4. 終末期ケアにおける倫理委員会の役割
病院によっては、終末期の医療行為や意思決定が複雑な場合、倫理委員会を設置しています。
- 役割: 患者さんや家族、医療チームの意見を踏まえ、医療倫理の観点から助言を行い、客観的かつ公正な意思決定をサポートします。
- 目的: 医療者と患者・家族の間での対立や、倫理的な問題が生じた際に、その解決を支援し、患者さんの最善の利益を守ることです。
終末期ケアの倫理と法的な側面は、複雑で、様々な意見があります。大切なのは、これらの違いを理解し、自分の意思を明確にすること、そして医療チームや家族と十分に話し合い、納得のいく形で意思決定を行うことです。
もし、これらのテーマについて深く考えたい、あるいは法的な側面で不安がある場合は、どうぞ一人で抱え込まず、当院にご相談ください。私たちは、あなたの疑問に寄り添い、適切な情報提供とサポートをさせていただきます。