- 2025年7月11日
- 2025年7月9日
4. 「もしもの時」に備える〜リビングウィルとアドバンス・ケア・プランニング(ACP)〜
「もし意識がなくなったら、自分の意思は誰が伝えてくれるのだろう?」「家族に延命治療の判断を任せるのは申し訳ない」。人生の最終段階が近づくと、多くの人が「もしもの時」について考え始めます。自分の望まない医療を受けないため、そして愛する家族の負担を減らすために、事前に自分の意思を明確にしておくことは、非常に重要です。それがリビングウィルや**アドバンス・ケア・プランニング(ACP)**という取り組みです。
リビングウィル(尊厳死の宣言書)とは?
リビングウィルは、「尊厳死の宣言書」とも呼ばれ、本人がまだ判断能力があるうちに、将来、延命治療を望まないという意思をあらかじめ書面で表明しておくものです。
- 主な内容:
- 心肺停止になった場合、人工呼吸器や心臓マッサージなどの延命措置を希望しないこと。
- 胃ろうや点滴などによる人工的な栄養補給を希望しないこと。
- 苦痛を和らげるための緩和ケア(痛み止めなど)は希望すること。
- 誰を医療代理人とするか(もしあれば)など。
- 法的拘束力: 日本では、リビングウィルに法的な拘束力は認められていません。しかし、患者さんの意思を示す重要な目安となり、医療現場での判断に大きく影響します。公正証書として作成することで、その意思をより明確にすることができます。
アドバンス・ケア・プランニング(ACP)「人生会議」とは?
近年、リビングウィルよりもさらに包括的で、患者さん自身の価値観や希望を深く掘り下げる取り組みとして注目されているのが、**アドバンス・ケア・プランニング(ACP)**です。厚生労働省はこれを「人生会議」と愛称をつけ、普及を推進しています。
- ACPの目的:
- 将来の医療やケアについて、本人が家族や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有しておくプロセス全体を指します。
- 単に延命治療の有無だけでなく、**「どんな場所で過ごしたいか」「誰と一緒にいたいか」「何を大切にしたいか」**といった、より個人の価値観に根ざした希望を話し合います。
- 話し合いの始め方:
- 元気なうちから、少しずつ家族と話し始めることが大切です。「もしもの時に、私のことはどうしてほしい?」と切り出すのが難しい場合は、「テレビでこんな話を見たんだけど…」といった話題から入るのも良いでしょう。
- 医療者やケアマネジャーなど、第三者を交えて話し合うことも可能です。
- 継続的なプロセス:
- 一度決めれば終わりではなく、病状の変化や生活状況、本人の気持ちの変化に応じて、何度でも見直し、更新していくことが重要です。
なぜ今、ACPが重要なのか?
- 本人の尊厳の尊重: 意思表示ができない状況になった時でも、本人の望む医療やケアを受けられるようにするためです。
- 家族の負担軽減: 患者さんの意思が明確であれば、家族は「あの時、これでよかったのか」と悩むことなく、安心して意思決定をすることができます。これは、看取り後のグリーフケアにも繋がります。
- 医療・ケアの質の向上: 患者さんの価値観や希望を理解することで、よりその人に合った、質の高い医療・ケアを提供することができます。
「もしもの時」に備えることは、決して「死」を意識することばかりではありません。それは、人生の最期まで「自分らしく生きる」ための前向きな準備です。リビングウィルやACPについて考え始めたら、どうぞ一人で抱え込まず、当院にご相談ください。私たちは、あなたの「人生会議」をサポートし、あなたの意思が尊重される未来を共に築きます。