- 2025年7月8日
- 2025年7月3日
記事6:アルコール依存症と間違えられやすい病気~適切な診断の重要性~
「お酒を飲まないと眠れないのは、ただの不眠症だと思っていた」「イライラして飲んでしまうのは、ストレスのせいだと思っていた…」。アルコール依存症の症状は、他の様々な精神疾患や身体疾患と似ているため、自己判断や誤った診断に繋がってしまう可能性があります。適切な治療を受けるためには、何よりも正確な診断が不可欠です。
アルコール依存症と間違えられやすい主な病気としては、以下のようなものが挙げられます。
- うつ病・不安障害:
- うつ病や不安障害の症状(気分の落ち込み、不安感、不眠、イライラなど)を和らげるために飲酒量が増え、アルコール依存症を併発することが非常に多いです(自己治療)。この場合、どちらが主症状なのか、あるいは両方が存在しているのか、専門医による鑑別が重要です。
- 双極性障害(躁うつ病):
- 躁状態の時に、衝動的な飲酒行動や飲酒量の増加が見られることがあります。双極性障害は、気分の大波があるのが特徴です。
- パニック障害:
- 予期しないパニック発作の不安を和らげるために、飲酒に走ることがあります。
- ADHD(注意欠陥・多動症):
- 衝動性の高さや、集中力の困難からくるストレスを飲酒で解消しようとし、アルコール依存症を併発するリスクがあります。
- パーソナリティ障害:
- 感情のコントロールが困難なタイプや、対人関係に問題を抱えるタイプなど、飲酒が問題行動の一つとして現れることがあります。
- 不眠症:
- 「お酒を飲まないと眠れない」という理由で飲酒が習慣化し、依存症に繋がることがあります。しかし、アルコールは一時的に寝つきを良くする作用はあっても、睡眠の質を低下させ、長期的な不眠の原因となります。
- 身体疾患(肝臓病、膵炎、脳萎縮など):
- これらの病気は、アルコール依存症の結果として発症することが多いですが、初期には原因が特定されず、単なる身体の不調として捉えられることがあります。
- 単なる「大酒飲み」:
- 毎日大量に飲酒するが、コントロール不能な状態や離脱症状がない場合、まだ依存症には至っていない可能性があります。しかし、進行すれば依存症に移行するリスクが高いため、注意が必要です。
これらの病気と症状が重複するため、自己判断せずに、必ず専門医の診察を受けることが不可欠です。
アルコール依存症の診断には、患者さんの飲酒歴、飲酒パターン、身体的・精神的な症状、社会生活への影響に関する詳細な問診が最も重要です。以下の点を詳しく伺い、総合的に判断します。
- 飲酒量と飲酒頻度: 過去からの変化を含めて。
- 飲酒コントロールの有無: 止めようと試みたか、止められたか。
- 離脱症状の有無と内容: お酒を減らした時にどのような症状が出るか。
- 精神状態: 気分の落ち込み、不安、幻覚など。
- 身体症状: 肝臓の数値、膵炎の有無、脳の状態など。
- 社会生活への影響: 仕事、家庭、人間関係など。
- 家族歴: 家族にアルコール依存症者がいるか。
誤った診断のまま、単なるストレスだと放置してしまうと、隠れた重篤な身体疾患や精神疾患の発見が遅れたり、依存症が進行してしまったりする可能性があります。当院では、心療内科の専門医として、患者さんの飲酒問題だけでなく、心身の状態を丁寧に伺い、正確な診断と適切な治療方針をご提案することで、患者さんが本来の健やかな生活を取り戻せるよう全力でサポートいたします。「もしかして」と感じたら、ためらわずに専門医にご相談ください。