- 2025年8月6日
- 2025年8月4日
3. なぜ字が書けなくなるの?書痙の原因と背景
「どうして自分だけ、字を書くときに手が震えるのだろう?」「急にこんな症状が出始めたのはなぜ?」。書痙に悩む多くの方が、その原因について深く考え、困惑しています。書痙は、単一の原因で発症するわけではなく、脳の機能的な問題と心理的要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
脳の機能異常:局所性ジストニアとの関連
書痙は、特定の動作中に筋肉が異常な収縮を起こす「局所性ジストニア」の一種と考えられています。脳の中では、動作を滑らかに調整するための「大脳基底核」という部分が関わっています。
- 大脳基底核の誤作動: 書痙の場合、字を書くという特定の動作をする際に、この大脳基底核からの指令がうまくいかず、関連する筋肉に過剰な、あるいは不適切な信号が送られてしまうと考えられています。これにより、手が震えたり、こわばったりする症状が現れます。
- ドーパミンなどの神経伝達物質の不均衡: 脳内の神経伝達物質(ドーパミンやセロトニンなど)のバランスの乱れも、ジストニアの発症に関与している可能性が指摘されています。
しかし、これらの機能的な異常は、MRIなどの検査では見つかりにくいことが多く、診断を難しくしている要因でもあります。
心理的要因:心の状態が引き起こす症状
脳の機能異常に加え、心理的な要因も書痙の発症や悪化に深く関わっています。
- 完璧主義・責任感の強さ:
- 「完璧な字を書かなければならない」「失敗は許されない」といった完璧主義の傾向が強い人は、字を書くことへのプレッシャーを感じやすく、症状が出やすい傾向があります。
- 責任感が強い人も、同様に過度なプレッシャーを感じやすいです。
- 過去の失敗経験・トラウマ:
- 過去に字を書くことに関して恥ずかしい思いをした、批判されたといったネガティブな経験がトラウマとなり、それがきっかけで書痙が発症することがあります。
- 例えば、人前で署名する際に字が乱れてしまい、周囲から指摘された、といった経験などです。
- 精神的ストレス・不安:
- 仕事や人間関係、家庭環境など、日常生活における慢性的なストレスや強い不安感は、書痙の症状を悪化させる引き金になります。
- ストレスによって自律神経のバランスが乱れ、体の緊張が高まることも症状に影響します。
- 予期不安の悪循環:
- 「また手が震えるのではないか」という予期不安が、実際に症状を誘発し、さらに不安を強めるという悪循環に陥ることがあります。
- この心理的なメカニズムが、書痙の症状を維持させてしまう大きな要因です。
- 性格傾向:
- 元々、繊細で感受性が高い、内向的、自己評価が低いといった性格傾向を持つ人が、書痙を発症しやすいという見方もあります。
その他の要因
- 遺伝的要因: ジストニア全体では、遺伝的な要因が関与しているケースもありますが、書痙単独での遺伝的影響はまだ明確ではありません。
- 利き手への影響: 字を書くという特定の動作に特化するため、利き手側の手や腕に症状が出やすい傾向があります。
書痙は、決してあなたの「気の持ちよう」や「努力不足」が原因で発症するものではありません。脳の機能的な問題と心理的な要因が複雑に絡み合って生じる病気です。原因を知ることで、自分を責める気持ちが和らぎ、「これは自分のせいではない」と理解できるかもしれません。
もし、あなたが今、この原因のどれかに心当たりがあり、苦しんでいるなら、一人で抱え込まずに当院にご相談ください。私たちは、あなたの背景に寄り添い、共に回復への道を探ります。